えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

自然主義的誤謬では退けられない主張 Kahane (2016)

Moral Brains: The Neuroscience of Morality (English Edition)

Moral Brains: The Neuroscience of Morality (English Edition)

  • Guy Kahane. (2016). Is, Ought, and the Brain. In S. M. Liao (ed.), Moral Brains: The Neuroscience of Morality, Oxford: Oxford University Press.
    • 2. Hume's law and naturalistic fallacy

 「我々は自然なことをなすべきだ」という主張を考えよう。このような主張は、ヒュームの法則ないし「自然主義的誤謬」によって、決定的に退けられるものだと考えられがちである。だがそれは誤解である。というのも、「自然なことをなすべき」というのは、正しいこと/不正なことに関する実質的な主張であり、ヒュームやムーアのメタ倫理的主張に必ずしも抵触しないからだ。たとえば、この主張は自明の真理でいかなる推論にも基づかないとされるなら、ヒュームの法則には抵触しない。また、この主張は正しさの意味にかんする主張ではなく、一定の行為に道徳的な正しさを帰属させているだけだと言われれば、自然主義的誤謬も犯していない。
 「我々は自然なことをなすべきだ」という真の見解の問題点は、ヒュームにもムーアにも関係ない。真の問題は、それが全くもっともらしくないーーつまり、反省を経ては維持できず、また文字通りとれば不条理が帰結するような倫理的見解だというところにある。戦争、疫病、暴力は全て自然である。もちろん、こうした帰結を避けるように「自然」の意味を洗練させていくことも可能である。しかし重要なのは、もっともらしさの問題は実質的問題であり、ヒュームやムーアのメタ倫理的論点とは必ずしも関係しないと言うことだ。