えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

痛点にかんする実験マニュアル Titchener (1901)

https://archive.org/details/cu31924085712192

  • Tichener, Eduard Brandford. (1901). Experimental Psychology. A Manual of Laboratory Practice. Volume 1. Qualitative Experiments. Part 1. Students’ Manual. New York, NY: Macmillan.

 以下に訳出したのはE. B. ティチナーが1901年に書いた生徒用の心理学実験マニュアルから、皮膚感覚を概観する節における痛みに関する記述と、痛みに関する痛点の分布を確かめるための実験方法です。これまでの著作と異なる目立った特徴として、痛みの質が単一ではない可能性に言及していることがあげられます。このマニュアルは実験手続きを異様に細かく記しており、世紀転換期の心理学実験の様子の一端を窺い知ることができます。

   ***   ***   ***

§18 皮膚感覚

〔……〕痛みは、皮膚と共に深層にある組織にも媒介されている。筋肉などにある痛み器官については正確な知識を得られていない。また現在のところ、様々な種類の痛み(鈍い、鋭い、喰い入るような、染み入るような、刺すような、チクりとする、ズキズキする、うずくような、ヒリヒリする)が別々の痛みの質をあらわしているのか、それとも、こうした違いは強さ(鈍い、鋭い)、長さ(打つような、ガンガンする)、位置(ゾクゾクする、チクりとする)の特徴や、圧迫感との混交に由来するものなのか、よくわからない。皮膚痛覚は、一貫して一つの質をもっている。〔……〕

実験XIII

§22 痛点

 この実験は実験XとXIIに類似している。皮膚痛覚の器官を精確に記述し、痛みの質と圧力の質を分けられるようになること。

 材料:丈夫な馬のたてがみを大量に用意し、カミソリやメスで鋭くする。圧点測定用機具〔Fig.12〕に付属している明るい木製の棒の先端部(加圧点となっていた部分)に、たてがみをワックスで固定する〔Fig. 13〕:ミリ単位の方眼紙:染料(茶色):消えないインク:カミソリ:きめの細かいスポンジ、木製のハンドルに装着のこと:石鹸と水:きめの細かい布巾:虫眼鏡

準備:E*1は消えないインクを用い、実験XIIで[O*2の手の甲に]書いた一辺10mmの正方形のなかに、底辺2mm[*高さ10mm]の平行四辺形を2つ描く。これで、実験XIIで描いた100mm平方の領域のなかに、20mm平方の領域が2つ描かれた。この計40mm平方の領域を痛覚の検査に用いる。
 手に書かれた2つの平行四辺形を拡大したものを方眼紙に描く。この際、各領域内の皮膚に見られる溝を方眼紙に精確に写し取っておくこと。
 皮膚を石鹸と水で十分に洗い、またカミソリで体毛を剃っておくこと。体毛を見逃していないか虫眼鏡で確認すること。実験を通じて、手が湿って「たるんだ」状態になっていることが非常に重要である。この条件を満たすために、第一の領域で実験作業を行っているあいだ他方の領域の方をスポンジで何度も叩き湿りを持続させておくこと。第一の領域で実験中、何らかの乾きのしるしが見られたら、Eは第二の領域にうつって作業を続け、第一の領域はスポンジで湿らせておくこと。これを各領域交互に繰り返す。水滴がついてしまったら布巾でふくこと。
 
実験:Eは機具を手にとり、([Oに]注意を促した後、)片方の平行四辺形のどこか一面を一点ごとに叩きながら進んでいく(圧力の実験と同様である)。たてがみの打点は、かならずしっかりと打ち下ろされなければならない。皮膚にはっきりとしたくぼみを作るためである。ただし、上皮をつきやぶってしまわないように注意すること。一般的規則として、圧力感覚の喚起に必要だった時間よりも少し長いあいだ皮膚を押す必要がある。
 痛点が見つかったら、Oは「そこ!」と叫ぶ。Eはすぐさまその点を、手の溝を手がかりにして、方眼紙の拡大された地図のほうに記録する。ここで補助として虫眼鏡ってもよい。感覚が非常に強い場合、点ではなく×印を地図に書き込んでもよい。記録が終わったらOに合図し、打点を再開する。
 このようにして、それぞれの領域をジグザグに叩いていき、2つの地図が完全に埋まるまで実験を続ける。皮膚に残った疲労やヒリヒリした感じが回復したら、先ほどとは逆向きに打点を行い、新しい地図を2つ描く。すると、各領域ごとに1ペアの地図が手に入る。このペアから、さらにもう一枚の地図を作製する。この地図では、どちらの実験でも見られた点を茶色、一方でしか見られなかった点を普通の黒インクでマークする。こうして得られた計6枚の地図を、ノートに挟んでおく。

 結果:Eは最終的な痛覚地図2枚とOの内観記録を手に入れる。圧点地図のなかで2枚の痛点地図と重なる部分は、それぞれ同じスケールに拡大して比較せよ。

 つぎの疑問が生じる。
O(1):質は別にして、その他三つの皮膚感覚(熱・冷・圧力)のうち痛みに最も似ているのはどれか?
O(2):痛みの質について完全な内観的特徴づけを与えよ
EとO(1):痛点はいくつあったか。圧点や温度点と比較せよ。圧点は体毛と関係していたが、痛点は何らかの周囲の構造と関係しているか?
EとO(2):この実験で皮膚を湿らせておくのは何故か?
EとO(3):さらなる実験を考えつくか?

*1:Experimenter、 実験者

*2:Observer、 観察者。今日の被験者のこと