- 作者: ピーター・J・ボウラー,岡嵜修
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1995/03/01
- メディア: 単行本
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- Bowler, P. (1989). The invention of progress: The victorians and the past. Oxford: Basil Blackwell (1995, 岡嵜修訳, 『進歩の発明:ヴィクトリア時代の歴史意識』, 平凡社)
- プロローグ 歴史のパターン
- 第一章 進歩と文明
- 幕あい 過去の魅力 ←いまここ
- 第二章 栄枯衰勢
画家や作家は政治経済学者の進歩観に共鳴せず、過去を古き良きものとする印象を引き出すことに注力した。19世紀はじめの「中世の復活」と引き続く古典主義は、表面上古い装いをしただけの歴史小説や絵画を生み出したにすぎなかった。古い時代の精神をそのまま理解しようとした人たちさえ、ヴィクトリア時代を批判するために過去を美化する誘惑から逃れられなかった。
ヴィクトリア時代人が過去への持続的関心を保ったのは、ジェントルマンにとって古典教育が必須であったからだ。近代産業を基盤に拡大した大英帝国であったが、その支配者たちはギリシア・ローマの古典から学んだ価値観にしがみついていた。これは一見奇妙に見えるが、過去のイメージはヴィクトリア時代人の好みに応じて作られていったことを忘れてはならない。例えばアテネのデモクラシーや帝政ローマのパクス・ロマーナが理想化された。
多くの絵画が古代文明を再現しようとし、20-30年代には古代人に極めて卓越した建築能力を与えるマーティンの絵画が人気を博した。だがこの傾向はじきに変化してくる。考古学の成果が過去を視覚化するやり方に影響を与えたのだ。
エジプトやアッシリア、そしてトロイアの発掘によって、古代帝国は確かに実在したが全く原始的なものであったことを明らかになった。さらに人類最古の化石が「野蛮人」であることが明らかになり、最古の文明は野蛮人に起源を持つという信念を強めた。そしてついに、過去を美化しようとする芸術家の努力に反し、ヴィクトリア時代人は野蛮からの上昇という人類史の見方を認めざるを得なくなった。