http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/handle/2261/56435
- 信原幸弘 (2015).「判断に抗して情動に導かれる行為は合理的でありうるか」, 『哲学・科学史論叢』, 27, pp.1-15.
人は、判断を裏切って情動(恐怖など)に基づいて行為してしまう場合があります。こうした行為は「合理的」なものといえるのか、さまざまなパターンを想定しながら考察した論文です。主張は以下のように整理できます。
- 情動に基づいた行為で、(ある観点から)成功しているもの
- (1) 情動に圧倒されている場合 →実際のところ行為ですらない
- (2) たまたま意志が弱かっただけで意図的行為ではあった場合
- (i) 情動が理由を追跡していない場合 →成功は偶然にすぎないので合理的ではない。
- (ii) 経験などに基づいて、理由を追跡する情動が形成されている場合
- (a) 情動がひとつの理由を追跡しているにすぎない場合 →理由の比較考量に基づいた理由の「正しさの保証」が無いので合理的ではない
- (a') 情動と判断の間で戦いが存在する場合 → それは理由間の力比べにすぎない。理由の比較考量とは、理由全体の整合性を維持しようとする試みであり、一貫した理由全体によって支持されていないこの行為は、十全な意味で合理的ではない
- (a) 情動がひとつの理由を追跡しているにすぎない場合 →理由の比較考量に基づいた理由の「正しさの保証」が無いので合理的ではない
結論は、真の意味で理由の比較考量を行う判断に従わなければ、行為は合理的にはなれないというものです。