- 作者: W・ブライアン・アーサー,有賀裕二,日暮雅通
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2011/09/23
- メディア: 単行本
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- アーサー, B. (2011)[2009] 『テクノロジーとイノベーション:進化/生成の理論』(有賀裕二監修・日暮正通訳 みずす書房)
この本は適切な抽象度で書かれていてさらなる思索を誘う素晴らしい一冊だと思います。なかでもこの「現象」の章は、バシュラールやハッキングとの関連で色々考えさせられました。新年の収穫です。
◇ ◇ ◇
全てのテクノロジーはなんらかの現象(効果)を利用するものです。例えば、石油精製は「原油成分の蒸発温度が異なる」という現象を、かなづちは運動の量の伝達という現象を、といった風に。ここでいう「現象」とは、物理的現象に限られず、例えば金融システムは行動的あるいは組織的な効果を基礎としています。
この特徴は、「テクノロジーとは何か」という問いに対する一定の回答につながります。
ここまでで、テクノロジーの直接的な説明として、目的のための手段という以上のものが得られた。テクノロジーは、取り入れて使用される現象だ。より正確には、取り入れて使われている現象の”集合体”と言うべきだろう。〔……〕現象とはある目的のために利用され、捉えられ、確保され、使用され、用いられ、活用されるものだ。〔……〕
これにより、別の方向からテクノロジーの本質を述べることができる。テクノロジーとは、目的にかなうように現象をプログラムすることだ、と。 p. 68
現象は「地下に隠れており、発見して掘り出すまで手に入らない」もので、深いところに隠れている現象の発見・回収には現代科学が必要となります。ある現象が発見されると、それは技術に取り入れられ、新たな現象の発見につながっていきます。
とはいえ話は、科学が発見しテクノロジーが応用するという単純なものではありません。動力飛行をはじめとする過去のテクノロジーは関連する科学などほとんどないところに生まれており、テクノロジーが科学を必要としだしたのは1800年ごろでした。それに、現代科学は観察と実験のためのテクノロジーがなければ存在し得ません。また、推論と説明でさえ、世界の特徴を明確にするために既存の法則と概念から組み立てられるという目的構造を持ち、テクノロジーの従兄弟のようなものと考えることができます。科学はテクノロジーを使うだけでなく、テクノロジーからできているのです。
また現象は、テクノロジーにおける「遺伝子」のようなものだと提案されます。というのは、生物において遺伝子が様々なタイミングで活性化するようプログラミングされ、結果複雑な身体構造が作りだされるように、一定の現象を様々な仕方で活性化するように「プログラム」された結果、個々のテクノロジーが出来上がるからです。