えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

よくわかる自閉症研究 金沢大学子供のこころ発達研究センター (2013)

自閉症という謎に迫る 研究最前線報告 (小学館新書)

自閉症という謎に迫る 研究最前線報告 (小学館新書)

  • 金沢大学子どものこころの発達研究センター監修 (2013) 『自閉症という謎に迫る:研究最前線報告』(小学館)

  遺伝子から社会に至るまでさまざまな分野の研究者が自閉症について概説した一冊です。

  自閉症が脳神経にかかわるということはもはや常識化してきましたが、本書の特徴はそれをふまえつつさらに一歩踏み込んで、「環境」の重要性を強調している点にあると思います。「環境」といっても様々な観点からとらえられていて、エピジェネティクスや、障害観・支援体制などの文化差、そして社会的構成にかんする議論が、オキシトシンや脳機能に関する研究とともにバランスよく配置されているのが興味深いです。
  章によってはちょっと基本的な知識がいるかもしれませんが、各分野に多少とも親しみがある人であれば、様々な分野での自閉症研究を手軽に概観できる一冊となっていると思います。現役の研究者の手になる本だけあって、今日のところわかっていること・わからないこと・(ときに大胆な)推測、がはっきりと区別されている点も魅力的です。参考文献表が無いのが悔やまれますが、値段を考えるとお買い得な一冊と言えるのではないでしょうか。

  一点だけ、私個人の知る限りでは、こちらの研究グループは地域の市民や制度を巻き込んだ社会的活動を様々に行っておられたはずで、それが最終章の最後でほんの少ししか触れられていなかったのは残念です。これらの興味深い活動も今後もっと広く紹介されるといいですね。