えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

催眠術によって妄想を感染させられる件 Freeman et al. (2013)

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24021856

  • Freeman, L. P., Cox, R. E. & Barnier, A. J. (2013) Transmitting delusional beliefs in a hypnotic model of folie à deux. Consciousness and Cognition, 22, 1285–1297
  • Langdon (2013) は、二人組精神病における経発者の妄想の内容は発端者とのコミュニケーションから直接来るが、一方でその信念が維持されるのは経発者の側の既存の脆弱性による、という二要因説を展開した。
  • 妄想の二要因説に従うと、第一要因と第二要因にかんする情報処理過程を乱すことができれば妄想的信念が生まれる。近年、催眠術を使ってこの撹乱を起こし、強迫性障害(Woody et al., 2005)や幻聴(Szechtman, Woody, Bowers, & Nahmias, 1998)などさまざまな症状をモデル化する試みがなされている。ここでは、催眠術を使って実験的に二人組精神病をモデル化したい。
  • 本実験では経発者に焦点を絞り、被験者はこの役を担う。第一要因(妄想内容)は発端者の役割をもつ協力者とのコミュニケーションによって与えられる。用いられる内容は、認知症によく見られる、鏡の中の自分が他人に見える、というもの。様々な暗示を用いたこれまでの実験は、催眠にかかりやすい群の約2/3にこの内容の信念を持たせることに成功している(Barnier et al., 2008, 2011; Connors, Barnier et al., 2012; Connors, Cox et al., 2012)。なお二人組精神病は共有幻聴を伴いやすいので、これも調べる。
  • 第二要因(信念評価の障害)は催眠状況によって与えられる。催眠状況は現実のモニタリングを撹乱する(Bryant & Mallard, 2005)。

メソッド

  • 催眠かかりやすい群17人にそうでもない群10人を用意。協力者(発端者)が信頼できるという情報を与えて親密な関係を模す条件を入れて2*2のデザイン。
    • 鏡のある部屋で被験者を催眠状態に導入した後、協力者が入室。被験者にはその人物が信用できる(/興味深い人物である)という暗示が催眠術士によって与えられる。協力者は鏡の中の自分が他人であると述べる。催眠術師は被験者に対してその鏡に何が見えるかを尋ねる。協力者が見えると答えた場合、協力者は被験者を説得しようとする。説得されない場合はそこで終了【協力者の鏡像】。もし他人が見えるといった場合にはその他人に関する質問がいくつか投げかけられ、協力者は回答に対して同意する。
    • 今度は被験者が鏡を見る。自分が写っていると答えたら終了【自分の鏡像】。他人の場合は先ほどと同じ質問を行う。
    • 続いて同じような手順で、ジングルベルの音楽が聞こえるという幻聴が共有されるかどうかを見る【ジングルベル】

結果

  • 各段階を突破した人数とパーセンテージ
高・信用 高・興味 低・信頼 低・興味
【協力者の鏡像】 6 (75%) 5 (63%) 0 (0%) 0 (0%)
【自分の鏡像】 5 (83%) 0 (0%) 0 (0%) 0 (0%)
【ジングルベル】 7 (78%) 3 (38%) 0 (0%) 1 (20%)
  • 鏡像について
    • 信用条件の有無に関わりなく、催眠にかかりやすい人は協力者の信念を受け入れやすかった。
    • しかしその中でも自分自身の鏡像も別人にみえると報告したのは、協力者を信用していた場合だけであった。
  • 音楽について
    • 催眠にかかりやすい人は協力者の信念を受け入れやすかった。
    • 催眠にかかりやすい人の中でも、協力者を信用している人はその信念を受け入れやすい傾向が見られた

※質問の分析や信念の強さの評価もやっているのだけれど割愛

ディスカッション

  • 予測および先行研究と整合して、催眠にかかりやすい人は「発端者」によって示された妄想的信念を受け入れやすい傾向がある。また興味深いことに、相手への信頼が高い場合にのみ、妄想的信念の拡張が見られた。
  • Langdon (2013) は、二要因説は外因的なプロセスを考慮するよう拡張されるべきだと論じた。妄想内容が協力者とのコミュニケーションにより与えられた今回の実験は、この見解と整合的であり、それを洗練させる役に立つだろう。
  • なおこの実験は、催眠術士によって与えられたのではない暗示に被験者が応答することを示した初めての研究である。