- Sinnott-Armstrong, W. ed. (2014) Moral Psychology
- Ch.1 Nahmias, E. Is Free Will an Illusion? Confronting Challenges from the Modern Mind Sciences.
- Ch.5 Mele, A. Free Will and Substance Dualism: The Real Scientific Threat to Free Will? ←いまここ
【科学的な自由意志懐疑論の構造】
<経験的命題> ←支持― <経験的データ>
<理論的〔意味論的〕命題>
→懐疑論
【例:Wegner (2002, 2004, 2008)】
<意識的意図は対応する行為の原因ではあり得ない>
<〔意識的意図が行為の原因となっていない行為は自由ではない〕>
→懐疑論
- Mele (2009) は、データ−経験的命題間の支持関係を批判。
- 実験の持つ真の脅威を分かってないという批判(Vergas, 2009)
- 「真の脅威」:自由意志の所持は非物質的な魂を必要とするが、(リベットのような)実験は魂が無いことの強力な証拠である。
- 実験の持つ真の脅威を分かってないという批判(Vergas, 2009)
自由意志と実体二元論:主張とデータ
- メレは魂はいらないと思うが (2006)、科学者は結構いると思ってる。
- 例:Montague (2008), Cashmore (2010), Greene and Cohen (2004)
- どちらかが普通の用法とは違う仕方で「自由意志」という言葉を使ってるなら、この対立はそう驚くべきものではない。
- そこで心理学・実験哲学ですよ
- 先行研究……非専門家のもつ自由意志の構想は実体二元論的でない
- Monroe and Malle (2010) :学部生を被験者とし「自由意志を持つとはなにを意味してると思うか」を自由記述。
- Nahmias et al. (2011c) :
- 「人間に自由意志があるのは物質的でない魂を持っているからだ」(賛成の割合:15-20%)
- 「自由意志という力は脳を超えている」(賛成:18%)、
- 「我々が自由意志を持つのは、脳が心を生み出しているからだ」(反対15%(脳を複雑で独自なものと記述した場合)・25%(脳を物理法則に支配されすぐにも科学的に理解できそうな機構と記述した場合))
- Mele自身も調査してみる
【調査1】
- 被験者:フロリダ大学の基礎哲学講義の生徒69名(自由意志は講義題目ではない
- 条件1(N = 33)
1ページの質問に答え、ページをめくって2ページ目の質問に答えてください。
[1p] 我々は、あなたが自由意志をどう理解しているかに関心があります。次の文章を読み、質問に○で回答してください。
2019年、科学者はついに、脳における意思決定や意図の正確な場所をしめしました。我々の決定は脳過程であり、我々の意図は脳状態なのです。
2009年、ジョン・ジョーンズは目の前を歩く人のポケットから20ドル札が落ちるのを見ました。その人は落としたことに気づいておらず、ジョンはお札を返そうかと考えました。しかし、ジョンはそのお札は貰うことに決めました。もちろん、後から科学者が発見したことに照らせば、ジョンの決定は脳の過程です。
質問:ジョンはこの決定を行ったとき自由意志を持っていましたか?
- 2pでは「自由意志」が「受けるべき道徳的責任」になる。シナリオは同じ。
- 条件2(N = 36)ではページを順番違いで提示。順序効果なし。
- 結果:自由意志(賛成:89.85%)、責任(賛成:86.95%)
- 決定を脳過程とみることは自由意志や責任の所持と両立
【調査2】
- 別の生徒86名
- 今回は自由意志だけ聞くことにし、意図や決定は他の脳状態によって引き起こされるという点を強調
2019年、科学者はついに、脳における意思決定や意図の正確な場所と、それらがどのように引き起こされるかをしめしました。我々の決定は脳過程であり、我々の意図は脳状態なのです。そして、我々の決定や意図は別の脳過程によって引き起こされたものなのです。
2009年、ジョン・ジョーンズは〔……〕もちろん、後から科学者が発見したことに照らせば、ジョンの決定は脳の過程であり、別の脳過程により引き起こされていました。
- 結果:自由意志(賛成:86%)
【調査3】
- ここまでの調査に関する疑問点
- 〔A〕話の詳細に関係なく自由意志を見て取っている?
- 〔B〕盗むと決めた脳過程以前の因果連鎖のどこかで非物質的魂が働いていると想定している?
- 被験者:生徒90名
- 2つのシナリオを提示
- シナリオ1:調査2のシナリオの冒頭部を変更し、物理主義的側面を強調
2019年、科学者はついに、宇宙の全ての事物は物質的なものであり、我々が「こころ」と言っているものは本当は脳の活動であるということを証明しました。
- シナリオ2
2019年、秘密の軍事組織で働いていた科学者はついに、安全な手なづけ薬を開発しました。この薬はつかうと、人に様々な行動をするよう心を決めさせることができます。この薬を人に投与してある行為の暗示してやると、その人はその行為を行うおうとどうしても心に決めてしまうのです。この暗示は、人の脳に埋め込んだ小型のコンピューターチップによって行うことが出来ます。
化学者たちは、非常に誠実な男性ジョン・ジョーンズにこの薬を与えました。ジョンが目の前を歩く人のポケットから20ドル札が落ちるのを見たとき、それを貰ってしまうよう暗示が与えられました。ジョンはお札を返そうかと考えました。しかし、もちろん、ジョンはそのお札は貰うことに決めました。そう、手なづけ薬と暗示によって、ジョンは貰ってしまうよう強いられていたのです。
- 結果:シナリオ1(賛成:73.33%)、シナリオ2(賛成:21.11%)
- シナリオ1の結果より〔B〕、2により〔A〕が却下される。
- 自由意志が実体二元論に依存するという主張は「自由意志」のふつうの用法からは支持されない。
fMRI研究と教訓
- Mele (2009) で扱えなかったSoon et al. (2008) についてコメントしたい。
- まず背景
- 「自由意志は実体二元論を必要とする」≠「意識的決定が対応する行為を引き起こすことが少なくともいくらかはある場合に限り、我々は自由意志を持つ」
- 効力を持つ意図は実体二元論を前提しない。物理主義的神経科学者の視点で言えば、NCが適切な原因なら心的状態も原因。
- 「自由意志は実体二元論を必要とする」≠「意識的決定が対応する行為を引き起こすことが少なくともいくらかはある場合に限り、我々は自由意志を持つ」
- Soon et al. (2008)
- 運動決定課題中に脳活動をfMRI測定
- 衝動を感じたとき、左右どちらかのボタンを自由に選んで押す
- どちらを選ぶかを高い精度でエンコードしている2領域の発見
- FPC(前頭葉前頭極)における予測情報:意識的決定より7秒前
- ボールド効果による遅延を考慮すると予測情報は10秒前くらい
- 2つ目の領域は頭頂皮質
- 2つの領域からの信号を組み合わせた最大の予測精度は60%
- 疑問1:その領域が運動意図を先にエンコードしているというのは本当?
- 精度の低さを考えると、これは早急な結論では
- たとえば、「その脳領域は行為者が片方を選ぶ公算を高める」のほうが早急でない
- 先立つ決定ではなく、一種の無意識的なバイアス
- 「ある行為の決定」≠「その行為への傾向」
- 疑問2:どういう自由意志の構想の上でその実験が脅威だというのか?
- 「決定したと考える数秒前に決定を行っている」という状況(決定が数秒前に既に行われているという点は譲っておく)
- 両立論者には問題ではない
- 今回の実験のように選択肢に違いが無い(indifferent)な場合と同じことが、そうではない場合(=注意深い推論によって選択が行われる場合)にも起こると考える根拠が無い。
- 意識的に理由を勘案してその結果意図を抱く場合、その意図は無意識的意図とは全然似ていない。
- リバタリアン(出来事因果リバタリアン)にも問題ではない
- 出来事因果リバタリアンは確率論的な非決定論的因果に自由意志をつなぐので、決定やその他の行為に先行確率(この場合0.6)がことは、〔むしろ〕慰めである。
- また(両立論者はもちろん)出来事因果リバタリアンも、行為の因果的先行者が時間的に(凄く)遠くにのびている事じたいを否定する必要は無い。先行者が決定的原因でなければそれでよい。
- 「決定したと考える数秒前に決定を行っている」という状況(決定が数秒前に既に行われているという点は譲っておく)
- Soon et al. (2008) のデータは自由意志に関する有力な哲学的説明のどれも脅かさない。
- また、このデータが実体二元論を脅かすと考える人もいるが、多くの人は自由意志に実体二元論が必要だとは思っていない。
- 教訓:「個別のデータが自由意志を脅かすかどうかを判断する前に、その脅威が本物であるためには自由意志はどのように理解されなければならないのかを考えよ」
- 科学による自由意志への「真の脅威」などなかった。