えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

アルベルトゥス・マグヌスの形成力 高橋 (2008)

エピステモロジーの現在

エピステモロジーの現在

  • 金森修編 (2008) 『エピステモロジーの現在』 (慶応義塾大学出版会)

第八章 高橋厚  「「自然の作品は知性の作品である」ーー中世アリストテレス主義自然哲学における『生成』の論理」 ←いまここ
第九章 荒原由紀子 「地質学と起源の夢想−−一九世紀フランスにおける文学と科学」

 家の建築という技術的生産の能動的原理は、建築家自身ではなく建築家の霊魂のなかにある「技術」、「家の形相」だとアリストテレスは考えました(Met, 1032B11-12)。さらに動物の生殖も建築家が家を建てるのと同じ過程であると論じられます。すなわち、動物の種子(精液)の中には、後に生まれる「動物の形相」が内在している、ということです。
  アルベルトゥス・マグヌスはこの原理を、アヴィセンナを経由しつつ、動物の精液の中には質料を動物に生成させる「形成力」があると読み替えます。「形成力」は幾つかの力から構成されますが、そこには天球の動者たる知性に由来する力(形相に対応)や、〔形相を実現するための〕道具となる元素の力がふくまれているとされます。そして、形成力によって事物が生成するというこの原理は、動物のみならずさらに金属や鉱物、自然物一般の生成に適用される事になります。
  建築家の霊魂の中に家の形相があるように、天球の動者としての知性の中に自然の諸事物の形相的起源がある。ここにおいてアルベルトゥスは「自然のすべての作品は知性の作品である」を使います。アルベルトゥスにとって「技術」と「自然」は対立するものではなく、同じ「生成」過程にあづかる2つの現象なのです。