えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

演繹に関する心理学的研究 Cosmides (1985)

http://www.cep.ucsb.edu/publist.htm

  • Cosmides, L. (1985). Deduction or Darwinian Algorithms? An explanation of the "elusive" content effect on the Wason selection task. Doctoral dissertation, Harvard University. University Microfilms #86-02206

序文:
第1章:論理と人間の判断に関する心理学 ←いまここ

  コスミデスの博論です。第一章では、演繹に関する当時の心理学的探求が簡単に振り返られます。

  ポパーの『科学的発見の論理』の影響もあり、認知心理学者は人間の学習はポパー的仮説検証の形態をとるはずだと考えました(Inhelder & Piaget 1958, pp. 254-55; Bruner, Goodnow & Austin 1956; Foder 1975)。そして仮説の排除には演繹が必要なので、人間の心には内容自由な「演繹要素 deductive component」(Watson & Johnson-Laird, 1972)、今日の言い方でいえば論理「モジュール」がある筈だと考えられました。ところが研究してみるとこんなものはない!(for review, see. Watson & Johnson-Laird, 1972; Johnson-Laird, 1982)

予側A:妥当な演繹が高頻度で信頼可能な形で行われる

・抽象的論証を見せて妥当性を問い誤謬率を見る:モードゥス・ポネンス(5%)/モードゥス・トレンス(20%)/前件肯定(20%)/後件否定(25%)(Shapiro (reported in W & J-L 1972 pp. 43-44))
・演繹させて誤謬率を見る:モポが必要な問題(44%)/モトが必要な問題(80%)(Gibbs (reported in W & J-L 1972 pp. 57-59))
・問題を「解決」出来そうだと見ると「p → q」が「q → p」は等値だと判断される傾向(Mazzocco (reported in Legrenzi 1970))
・結論に同意していると推論は妥当だと判断する傾向 (Pollard & Evans (1981) )
→では論理モジュールはもっと特定的なもの、仮説「p → q」を「p&¬q」で反証する機能のみを持つのでは?
・4枚カード問題はロバストに解けない。
・解き方を教えることも難しい。治療的実験はうまくいかない(フィードバックあり・反証するカードを想像させてフィードバック(Wason & Shapiro 1971/実際めくった後再テスト(Hughes 1966)/めくったものを隣に用意してやる(Goodwin & Wason 1972)。

予測B:論理モジュールは仮説を「認知」し、そのうえでそれを処理する

・論理モジュールは仮説の言語上のフォーマットによらず論理的「深層構造」を捉える筈だろう。
・(1)同じ仮説でも言語的フォーマットによって妥当な演繹を引き出すかどうかが変わる:(2)ある問題で演繹を促す言語フォーマットが別の問題ではそれを妨害する事がある。(e.g., Van Duyne 1974; Roberge 1978, 1982; Bracewell & Hidi, 1974)

予測C:妥当な演繹は素早く、自動的に、意識的注意なしに行われる

・Aのところで見た実験では時間と意識的注意を割くことが認められているのに、なお間違えている

予測D:論理モジュールは特殊な訓練なしで発達する

・Aのところからわかる。それどころか、治療的実験の結果や論理学者に対する実験でも正答率はたいして改善しない。

予測E:論理モジュールは内容独立である

・70年代前半、「親しみがある」、「現実的」あるいは「テーマ性のある」規則でテストすると論理的推論が引き出される事が分かってた(「内容効果」・「テーマ的教材」効果)(Wason & Shapiro 1971; Johnson-Laird, Legrenzi & Legrenzi 1972; Bracewell & Hidi 1974; Gilhooly & Falconer 1974)。当初、内容の親近性や現実性が演繹推論の使用を促すと考えられた(Wason & Shapiro, 1971; Johnson-Laird, Legrenzi & Legrenzi, 1972)。
・しかし、親しみある内容でも演繹推論を引き出さないものもあり(e.g., Van Duyne 1976; Manktelow & Evans 1979; Griggs & Cox 1982; Cox & Griggs 1982; Reich & Ruth 1982; Yachanin & Tweney 1982; Griggs & Cox 1983)、同じ親しみある規則が場所によって演繹を引き出したり出さなかったりした (e.g., Golding 1981; Griggs & Cox 1982; Yachanin & Tweney 1982).


⇒論理モジュールなんてない!
・条件文に演繹的規則が使われてないなら、何が使われているのか。また、ポパー的仮説検証によって学習しないならどう学習するのか。「内容効果」の存在は、論理的条件法に関する推論が内容依存的な認知的処理によって制御されている可能性を示唆しています。