えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

「信用」概念と意図の共有 Alonso (2009)

http://www.jstor.org/stable/10.1086/599984

  • Alonso, F (2009) Shared Intention, Reliance, and Interpersonal Obligations *Ethics* 119 pp. 444-475

  「意図を共有している」と言える状況では、関係者はその意図を実行する義務を「相手に」負っています。こうした相互の規範性が伴っているという共有意図の特徴に「信用」という概念から迫ろうと言う論文です。

  まず、「信用」は信念との比較で次のようなものとして導入されます。

  • 【信用と信念の似ている点】

(1)命題的な対象を真だと見なす認知的態度である
(2)推論の前提として働く

  • 【違う点】

(A)信用は常に実際に推論の前提になっていなければならない(信念のように使ったり使わなかったり出来るものではない)
(B)信念は証拠によって正当化されるが、信頼は証拠と同時に実践的な要素によっても正当化される(行為に絶対に必要な信用は多少証拠が薄くとも正当化される)。

  そして、「相手も同じように意図するだろう」という前提をおかなければ、自分が共同意図を抱く事も出来ないという共有意図特有の構造から、共有意図には必ず相手への信用が含まれていることが指摘されます。そこで、共有意図の必要条件として次が提示されます。

【図式1】
我々が意図を共有しているのは次の場合に限る
 (1a)私は、我々がJすることを意図している
 (1b)あなたは、我々がJすることを意図している
 (2a)私は、(1b)および貴方がJの担当部分を行うことを信用している
 (2b)あなたは、(1a)および私がJの担当部分を行うことを信用している
 (3)1−2は共有知識である

  ところで、ブラットマンは共有意図における相互の規範性を説明しようとして、互いの意図が互いの意図の「形成」に関与している点に着目しました。しかしアロンソは、そうした相互の「形成」のプロセスがなくても共有意図が成立する事例を提示します。続いてアロンソは、自分の意図が、相手の意図を「形成させる」/相手の意図を「強化させる(支持をあたえる)」の区別に注意を払い、「形成」がなくても相互の「強化」が存在し、そこに相互の規範性の源泉が求められると論じます。すなわち、「相手に理にかなっているが偽な期待を抱かせては(形成)いけない」とするスキャンロンの道徳原理を強化にも拡張するのです。
  かくして、共有意図を部分的に構成する信用が相互の道徳的規範性が由来する事になます。これは、共有意図と相互の規範性の強固な結び付きを強調しつつもその規範性は道徳的ではなく特殊集団的なもの〔政治的なもの〕だと考えるギルバートの路線と、相互の規範性は道徳的なものだと考えるが共有意図との関係は偶然的だとしてしまうブラットマンの路線の間を行くものです。