えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

猿も行為者性の感覚を経験している件 Kaneko & Tomonaga (2011)

http://dx.doi.org/10.1098/rspb.2011.0611

  • Kaneko, T. & Tomonaga, M. (2011) The perception of self-agency in chimpanzees (Pan troglodytes) *Proceedings of the Royal Society B: Biological Science*, 278, pp. 3694-3702.

※京大のWEBサイトでニュースになってます
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2011/110519_1.htm

  人間には、自分の身体運動とその結果を制御しているという主観的な感覚、「行為者性の感覚」があります。この論文は、チンパンジーが行為者性の感覚を経験しているかどうかを検討するものです。チンパンジーに2つのカーソルの表示されたモニタを提示します。一つはトラックボールで動かせる「自分カーソル」、もうひとつは予めのアルゴリズムによって動く「撹乱カーソル」です。先行研究でチンパンジーはどっちが自分の動かしたカーソルかを識別できる事が分かっていますが、それが行為者性の感覚によるのか、それとも単に視覚的な手掛かり(例えば、自分カーソルはなめらかに動く等)によるのかはよく分かっていません。
  そこで、2つの条件で視覚的な手掛かりトントンにするため、被験猿が動かしたカーソルの運動をあらかじめ記録しておき、これを撹乱カーソルの動きにします。この上で自分カーソルをちゃんと識別できるなら、これは行為者性の感覚によっているだろうと言う訳です。結果、チンパンジーはこの条件下でも識別が可能だと分かりました(実験1)
  さらに行為者性の感覚の関与を確かにすべく、通常の試行と同じオンライン条件と、直前のオンライン条件での両カーソルの動きが自動的に完全に再現される(ため、どちらのカーソルもトラックボールでは制御できない)オフライン条件が用意されました。もし両カーソルの識別が何らかの視覚的手掛かりに対する単なる連合であれば、オフライン条件でもオンライン条件でも、(元々の)自分カーソルの方を選ぶ課題をうまく達成できる筈です。一方で行為者性の感覚によって識別が行われているなら、オンライン条件に比べてオフライン条件でのパフォーマンスは低下する筈です。結果は、確かにパフォーマンスが低下しました(実験2)。
  次に、トラックボールの操作とカーソルの動きとの間の時間的な遅れ(300ms)と画面の空間的なゆがみ(画面を135度回転)によって2*2の条件が設けられました。行為者性の感覚の基礎には、行為の結果のの予測と現実からのフィードバックの合致を監視する認知メカニズムがあると考えられていますが、もしそうだとすれば、遅れやゆがみ条件下ではパフォーマンスは低下するでしょう。結果は、両要因ともパフォーマンスを低下させますが、遅れ条件よりもゆがみ条件の方が影響が大きく、ゆがみ条件と遅れ+ゆがみ条件に有意差はありませんでした。ゆがみの影響がかなり強いようです(実験3)。
  これらの3実験は、チンパンジーが行為者性の感覚を経験していることを示しています。