- 作者: 橋本毅彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/05/22
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- 橋本毅彦 (2013) 『近代発明家列伝』 (岩波書店)
第8章 ライト兄弟――空間意識を変えた飛行機 pp. 149-168
ライト兄弟は高校卒業後、自転車ブームに乗じて自転車販売業を営んでいました。各国で行われていた飛行実験の話は彼らの耳にも届き、特に1896年のリリエンタールの事故死は大きな印象を与えます。1899年春兄弟は行動を開始し、「航空学の聖書」たるシャヌート『飛行機械の進歩』(1894)やラングレー『空気力学の実験』(1891)、『航空年報』などの先行研究を検討し、姿勢制御の重要性に着目します。
翼を捻って方向とバランスを制御する「撓みつばさ」を考案した兄弟は、1899年7月には凧、そして1900年にはエンジンを搭載しないグライダーの飛行実験に取り組みます。姿勢制御の訓練を行った後に試験飛行を行いましたが、捗々しい成果は上がりませんでした。グライダーの揚力が計算通りにならなかったのです。
原因不明のままとりあえず翼を改良し、1901年夏に再び飛行実験が行われますが、ここでは「撓み翼」による旋回がうまくいかないという第二の問題が生じます(あと蚊がめちゃ居て大変だったようです)。
第一の問題に対して、兄弟は自転車修理の機械工チャーリー・テイラーと協力して箱型の小さな風洞と計測器を制作し、30種類ほどの翼模型に働く力を測定しました。これによってより精確な計算が可能になり、細長い翼が最適な形状だと同定されます。第二の問題も1902年の飛行実験を経た垂直尾翼の工夫により解決されました。エンジンについては、兄弟の設計で制作してくれる会社がなかったので、テイラーが自前で作成しました。
1903年10月、「フライヤー号」の組立が開始されます。この時、サミュエル・ラングレーの飛行試験(失敗)のニュースが入ったため、飛行機発明の一番乗りを目指す兄弟はエンジン無しの滑空試験を省略しすぐさま飛行試験を開始します。エンジンの振動に耐えられずシャフトがぶっ壊れたりしましたが、ついに12月17日の第四回目の飛行で59秒間の飛行に成功します。
「フライヤー号」の改良は続けられ、1905年には40分ほどの飛行が可能になります。兄弟は陸軍に発明を売り込もうとしますが、ランググレーの失敗やこの技術が公に実証されていなかったことで契約は成立しませんでした。そこで1908年8月、パリのル・マン近郊で実演披露が行われ、また9月には一時間半もの滞空飛行に成功します。これらは世界各国にセンセーショナルなニュースとして報道されます。こうして飛行機の時代が幕を開けたのです。
1909年にはブレリオがイギリス海峡を横断し、飛行機の軍事的重要性が強く認識されてます。第一次大戦での利用を経て急速に社会へ普及した飛行機は人々の空間意識を根本的に変えましたが、「戦略爆撃」の軍事思想のもと第二次大戦では殺戮兵器として使用されることになっていきます。
■あわせてよみたい
飛行機の誕生と空気力学の形成: 国家的研究開発の起源をもとめて
- 作者: 橋本毅彦
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