えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

有徳な性格と行為の関係は Hurka (2006)

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1467-8284.2006.00591.x/abstract

  • Hurka, T. (2006) Virtuous act, virtuous disposition

 徳や悪徳の概念は、性格特性や傾向性に用いられるグローバルな使用法と、行為や、欲求や感情などのオカレントな心的状態に用いられるローカルな使用法があり、両使用法の関係に関する見解として次の二つがあります。

  • 【傾向性説】

・グローバルな使用法の方が一次的で、有徳な行為や感情は有徳な傾向性から来る。
・有名な論者としてアリストテレスおよび現代のネオアリストテリアン
・有徳な行為や感情とは独立に有徳な傾向性を同定する事が必要

  • 【オカレントな状態説】

・ローカルな使用法の方が一時的で、有徳な傾向性は有徳な行為や感情を生み出す傾向性だとされる。
・W.D.ロスら
・行為の有徳さは欲求に依存し、欲求の有徳さはそれが対象の道徳的価値に対して適切なものかどうかに依存する。

・そして、徳に関する常識的な理解は明らかに後者の見解を採っています。我々は行為を有徳だと思う時、それが有徳な安定的傾向性から発しているかどうかなど普通は考慮しないのです。

  ◇  ◇  ◇  

・徳が価値である以上、両者の対立は第一義的な価値のありかをめぐる対立です。前者では、傾向性こそが第一義的価値を持っており有徳な行為はそれ自体としては価値が無い。一方で、後者によれば傾向性の方が有徳な行為を生み出してくれるという道具的価値しか持ちません。
・しかし、例えば他人を助けたいと言う有徳な動機から生じた行為が、それ自体としてみた時、傾向性から生じた行為よりも善さが劣っているなどという事があるでしょうか? ある、と考える理由がない限り、オカレントな状態説の方が正しいという事になります。 

  ◇  ◇  ◇  

・近年、グローバルな性格特性の存在を懐疑する心理学の状況主義が、徳に焦点を当てた日常的な道徳に対する攻撃となるという議論があります。しかし、オカレントな状態説、つまり常識的な徳による道徳にとって、この批判はあまり強力ではありません。性格特性が無くても有徳な行為は有徳な行為だからです。