えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

計画理論における共同行為理解へむけて Bratman [1992]

Faces of Intention: Selected Essays on Intention and Agency (Cambridge Studies in Philosophy)

Faces of Intention: Selected Essays on Intention and Agency (Cambridge Studies in Philosophy)

  • Bratman [1999] *Faces of Intention* (Cambridge University Press)

Chap. 5 Bratman M [1992] "Shared Cooperative Activity" ←いまここ
Chap. 6 Bratman M [1993] "Shared Intention"
Chap. 7 Bratman M [1993→1999] "Shared Intention and Mutal Obligation" 
Chap. 8 Bratman M [1997] "I Intend that We J" 

I 共有された協調活動: 三つの特徴

共有された協調活動(Shared Coopertive Activity: SCA)には三つの特徴があるようにおもわれる
・(1)相互応答性
関与者はほかの関与者の意図と行為に対して応答的であるように努めており、ほかの関与者も同じような応答性を持っていると知りつつそうしている。
・(2)共同活動へのコミットメント
各々の関与者は(異なる理由によってかも知れないが)〔同じ〕共同活動への適切なコミットメントをもつ。このコミットメントを追求する中に相互応答性はある。
・(3)相互援助へのコミットメント
各々の関与者は、別の関与者が共同活動においてその人の役割を果たす努力を援助することにコミットしている。

・(2)や(3)なしに(1)が満たされる場合がある
例)二人の兵士が戦う場合。

II 共同活動へのコミットメント

私が我々の共同活動にコミットメントするとはどういうことか
→それは、典型的には、共同活動に賛同する意図へのコミットメントを部分として含む(この意図は、異なる理由から持たれていてもよい)

協同負荷的/協同中立的

SCAの分析に一緒に協調的に行為しようという意図を持ち出すと循環論法になる
→そこで、協同という観念を既に含む協同負荷的な行為タイプと、
 その必要はない協同中立的な行為タイプを区別する。
分析に使われる意図は、協同中立的な方法で特徴づけられたものにしなくてはならない。

計画としての意図

・そもそも人は他人の行為を振舞おうとするattemptことは不可能なのだから、われわれがかくかくすることを意図するなどという意図は怪しい存在なのではないか?
・試みること(行為内意図)はそうかもしれないが、ここでは計画としてとらえられた意図が問題である。

⇒SCAにおいて関与者はそれぞれ、自分たちが(協同中立的な)行為を行うことを意図している。しかしこれだけではまだ十分ではない。

III 計画を噛み合わせることと意図の相互依存性

・二人の下位計画が完全に背反するとSCAは行われないが、完全に一致していなくてもよい →必要なのは下位計画の噛み合い
・我々がJすることに関する個々人の下位計画が噛み合っている iff 我々のどの下位計画も侵さず、かえってそれらの下位計画を成功裏に遂行できるような、Jの行い方が存在する
・SCAでは、関与者は単に共同活動が振舞われることを意図するだけでなく、<噛み合う下位計画にあわせる形で共同行為が振舞われること>をも意図する。

意図でなくてはいけない理由: 下位計画の無視

・何故、意図の内容に噛み合い条件を入れたのか
→そうでない場合、<一緒に家を塗ることを意図しており、下位計画がたまたま噛み合っているが、この噛みあいを維持することにはコミットしていない状況>が考えられる。
 この時、もし急に下位計画が一致しなくなった場合、共同活動を続ける限り、相手の下位計画を迂回しだすだろう。これだと、SCAのC(協調)の要素がなくなってしまう。
(たまたま赤で塗る計画が一致していたが、不意に青が良いと言われた場合、それでも共同活動を続けるなら、色を折り合わせようとするのではなく、例えば相手のペンキ缶に密かに赤ペンキを足すだろう)

強制の場合1: 行為者性の無視

・相手をもののように扱って無理やり共同行為させる場合、私はあなたの<意図をもった行為者としての在り方>を迂回している。しかし協同とは互いを意図的存在だと見なして扱う意図的存在の間で成り立つものである。
→SCAにおいて私は、部分的にはあなたの意図とその下位計画のゆえに、「我々がJする」という意図を持つのでなくてはならない。
・さらにSCAにおいては私は私自身を含めた関与者を意図的行為者として見ているのだから、私の意図と下位計画の効力も、私の意図の内容に同じように含めなくてはならない。そうしないと私の意図の内容の中にはあなたと私で深い非対称性があることになるが、この非対称性を支持するものは何もない。

定式化

・以上の考察により、SCAの関与者には以下の態度が必要であることがわかる。

(1)(a)(i) 私は<我々がJすること>を意図する
(1)(a)(ii) 私は<(1)(a)(i)と(1)(b)(i)の噛み合った下位計画にあわせてまたそれ故に我々がJすること>を意図する
(1)(b)(i) あなたは<我々がJすること>を意図する
(1)(b)(ii) あなたは<(1)(a)(i)と(1)(b)(i)の噛み合った下位計画にあわせてまたそれ故に我々がJすること>を意図する

強制の場合2

・行為者性を迂回しない強制もある。(例)あなたに銃を突きつけて、一緒にニューヨークに行くか、引き金を引くかどちらかの決定を迫る
これを回避するために次の条件を加える

(1)(c) (1)(a)(1)(b)における意図は、他の関与者によって強制されたものではない。

認知的条件: 共有知識

そして以上のような<相互に強制されていない意図の体系>があることは、関与者の共有知識になっていなくてはならない

(2) (1)は我々の間で共有知識になっている。

ポイント

(1)で表現される<意図の網目>が、SCAに特徴的な<共同活動へのコミットメント>を保証する。
・各行為者は相手の意図の効力に賛同する形で意図をもつので、ここで意図は連動している。
・各行為者は相手の意図が成功裏に銃行使されることを意図する必要があるので、相手の意図は自分にとっての目標を与えるものでもある。
・各行為者は自分の意図の有効性に関する意図を持たねばならないので、この意図の体系は反射的である。
⇒SCAは、<共同活動に関する相互に強制されていない意図の、適切な形で連動した反射的な体系>を含む

VI 相互支援へのコミットメント

・ここまでの説明でも、意図のもつ目的手段的合理性により、必要だと思われる限りで共同活動における相手の役割を助ける事へのコミットメントが生まれている。しかし<あなたは私の助けを必要としないだろう>と信じていた場合どうか。
(例)助け合い精神の無い歌い手:私とあなたはデュエットしている。あなたは正しい音程で歌うと十分に予想しており、デュエットになるよう自分の音をあなたの音に合わせようと意図している。しかし万が一あなたが音を外した場合、助ける気が全くない。私は自分たちの成功よりもあなたの失敗を好むからである。相手も同じように思っている。
→このデュエットは共同で意図されているがSCAではない。そこで、最小限必要な相互支援の要求を定める。

我々がJすることに協同という点で重要な状況

<我々がJすることに協同という点で重要な状況>を以下が成り立つ状況であるとする。
(a) 関与者がSCAの(1)と(2)を満たす
(b) あなたに問題が起きている。あなたは関係する意図を引続き持っているが、Jを成功裏に遂行するように行為するために私からの助けが必要としている。
(c) 私は自分自身のJへの寄与を掘り崩すことなくあなたを成功裏に助けられる。
(d) Jにおけるあなたの役割を助けることへの新しい理由はない。
(e) 以上は全て共有知識になっている

・<我々がJすることに協同という点で重要な状況>で参与者が意図を保てる場合、その意図を最小限の協同という点で安定していると言う。すると最後の条件はこうなる。

(1)(d) (1)(a)(1)(b)における意図は、最小限の協同という点で安定している。

V 相互応答性と結びつき条件

〔ここまでで関連する態度の話は終わり〕
我々がJすることがSCAであるには三つの事が真でなくてはならない。
・我々はJしている/我々は適切な態度をとっている/その態度がJと適切に結びついている ←この適切な結びつきの条件とは?

・SCAには「相互応答性」があるのだった。(2)は意図の相互応答性を実現させるだろうが、行為における相互応答性も必要。つまり、

協同中立的なJに関して、我々がJすることがSCAである iff
(A) 我々はJしている
(B) 我々は(1)(2)で特定されたような態度を持つ
(C) (B)は、意図と行為における相互応答性という形で我々に(A)を導いている。

包装済み協同

 (1)(2)があって意図の相互応答性もあり、あらかじめJにおける自分の役割をわかっているのだが、その後互いに全く相互作用しないため行為の相互応答性がないような行為を「包装済み協同」と呼ぶ。(+(A)+(B)-(C))

VI 競争と噛み合いのレベル

チェスのゲームなどの活動は、共同意図的ではあるがSCAではなく、むしろ競争的活動である。
SCAでないのは、自分のゲーム計画を相手の計画と噛み合わせようなどとは思っていないからであり、
共同意図的であるのは、ルールや実践のレベルでは下位計画を噛み合わせようといているからである。このレベルではSAは見られる。

IIV おわりに

・以上の説明は<個人主義的である>: SCAの特徴を、関連する個々人の態度と行為という観点から説明した
・また<還元主義的>でもある