えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

アフォーダンスは傾向性である 柏端 (2008)

環境のオントロジー

環境のオントロジー

  • 作者: 河野哲也,齋藤暢人,加地大介,柏端達也,三嶋博之,関博紀,溝口理一郎,染谷昌義,倉田剛
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2008/07
  • メディア: 単行本
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  • 柏端達也 (2008). 環境の性質――性質のオントロジーに向けて

1 有機体、環境、アフォーダンス

有機体と環境は二者であり、環境は有機体とのかかわりにおいて一定の性質を持つ。その中にはギブソンがアフォーダンスと言ったものが含まれている(ギブソン「この言葉は、動物と環境の相補性を包含している」)。

問:現代の性質論の観点から、アフォーダンスはどのような性質だと考えられるか?

2 関係と関係的性質

・性質とは? 
→述語が当てはまるもののクラス
・「相補的」とは?
→aの持つ「bより大きい」のような関係的性質と類比によりその「薄い」意味が捉えられる。

【関係的性質】bより大きいという関係的性質をaが持つかどうかは、bが存在し、かつaのほうがbより大きいという関係的性質をbがもつかどうかに依存している(bからの逆の依存も成り立つ)。

・関係的性質は、外在的性質として特徴づけることができる。

【外在的性質】Fを持つということの由来が、その性質を持つ時間の外部にあるか、または、その性質を持つ対象の外部にある
・Fを持つことの由来がその性質を持つ時間の外部にある
  =任意の対象xと任意の時間tについて、以下のことが必然的に成り立つ。すなわち、t時においてxがFをもつのは、tより前か後にもxが存在するときにかぎる。
・ 〃 対象の外部にある
  =任意の対象について、以下のことが必然的に成り立つ。すなわち、xがFをもつのは、xとは完全に別の(つまりxとは部分を共有しない)具体的対象が存在するときに限る

・つまり:外在的性質とは、その性質を持つために外部に何らかの存在を必要とする性質
・アフォーダンスには以上のような形式的相補性よりもさらに「分厚い」意味での相補性が見出されると主張されるかもしれないがそれはミスリーディングである。

【本論の主張】
1 アフォーダンスそのものを関係的性質としてとらえるのは誤りである
2 アフォーダンスは傾向性の一種である 
3 傾向性としてのアフォーダンスの含意する存在論的相互性はとても弱い 
4 個別の環境が個別の有機体に対し特定のアフォーダンスを持つという関係は存在する。しかしその関係的性質はアフォーダンスそのものではない

3 傾向性としてのアフォーダンス

アフォーダンスは傾向性

・傾向性とは?
→その顕在化とみなされる特定のタイプの出来事Mと、そのトリガーとなる特定のタイプの状況Cによって定義される性質

・Cは傾向性Fの顕在化Mのトリガーである
 =任意の対象xについて、xがFをもつことが、概念的、必然的に次の反事実的条件分を含意する。すなわち、Cが成立したならばMがxに起こるだろう。

・アフォーダンスとされる性質が傾向性としてとらえられることはすぐに見て取れる(甘さ、<その上で文字が書ける>性など)
・傾向性の実在性は、その顕在化トリガーの存在を必要としない(顕在化の不在は傾向性そのものの不在ではない)。顕在化やトリガーの記述に当の傾向性を持つ事物の外部への言及が含まれるが、それは傾向性が関係だということではない。なぜなら
【傾向性の場合】
水も人間も存在しないお菓子の国があるとする。この国は甘い。なぜなら、この国の構成物をもし口にすれば甘く感じるから。
【関係的性質の場合】
次女幸子と長女鶴子という姉妹がいる。しかし鶴子がいない可能世界においては、幸子は次女ではない

・崖は誰が近寄らなくても落ちやすく危険だという性質をずっと持っている。この点でもアフォーダンス自体は関係的性質ではないことがわかる。

アフォーダンスの相補性

・しかしアフォーダンスに関連する関係はある。
→ある個別の有機体に対しある環境の一部が特定のアフォーダンスを備えていること自体は一種の二項関係である(「問題の有機体がトリガーを構成しうるタイプの個体であるような、これこれのアフォーダンスを持つ」という性質)
→「相補性」はまずアフォーダンスに関連する関係的性質について見て取ることができる

・ある傾向性が存在するところにはそれと対になる傾向性が存在する(砂糖「水に溶ける」:水「砂糖に溶けいれられる」)
→環境の持つアフォーダンスに対応して、個体の側にもアフォーダンスが存在する、という「相補性」もある
・さらに、個体の側の傾向性に関しても上記の関連する関係的性質がある

・何も起こらなくても以上のような相補性がみられる。実際に個体と環境が因果的に相互作用すれば両者の相互依存関係はより重層的になる。

4 気になる論点を二つ

還元主義の問題

・ここで関連する「実在性」の語には二様の意味がある
【関係的性質の実在性】
・性質をあらわす述語が対象について真となる、といった程度の意味
Ex.「飼い犬性」:ある犬は飼い犬でありうるが、現実には誰にも飼われていなかったので飼い犬ではない
→ある犬が飼い犬かどうかは犬だけを観察してもわからない

【傾向性の実在性】
・様々な反事実的想定のもとでも失われない、より堅固な実在性
Ex.毒性:ある玉ネギは犬のとって毒である。その玉ねぎを犬が食べることはなかったが、それでも犬に対する毒性を持ち続けていた。
→玉ネギの毒性は玉ネギだけを調べればわかると言いたくなる

・玉ネギの毒性は、結局玉ネギの成分の、非傾向的かつ非関係的な科学的性質(基盤性質)へと還元できるのでは?
⇒還元主義(さらに還元不可能性を示して消去主義へ)
・傾向性やアフォーダンスを世界の重要な構成要素とみなしたいなら、あらゆる性質を傾向的なものへと還元するか、あらゆる性質に傾向性的な側面を見出す必要がある。

価値の問題

・人が対象に帰属させる価値や意味の非常に多くが関係的である(しかふつう対象外在的かつ時間外在的)。これらの価値や意味は、対象の中に知覚できない。
・このタイプの外在的な価値や意味を帰属させられるのは思考主体に固有の能力であるように思われる。これらが人間にとっての「アフォーダンス」かどうかはにわかにはわからないが、人間の環境の重要な一部を構成している。