えめばら園

Philosophier' Er nicht, Herr Schatz, und komm' Er her. Jetzt wird gefrühstückt. Jedes Ding hat seine Zeit.

注意は常に知覚内容に影響する Nanay (2010)

http://analysis.oxfordjournals.org/content/70/2/263

  • Nanay, B. (2010). Attention and perceptual content. Analysis, 70(2): 263−270.

知覚経験の志向説と反例

・知覚経験の志向説:知覚経験の現象的性質は、その知覚経験の内容にSVする
→この見解には、「二つの経験が現象的に異なっているが、同じ内容をもっている」と思われる反例が提出されてきた。

  • 反例1(Chalmers [2004])

黒地に2つの赤い点を見ているとせよ。
経験1:右側の点に注意している
経験2:左側の点に注意している
二つの経験は現象的に異なっているが、おそらく同じ内容をもっている

  • 反例2(Nickel [2007])

白地に3×3の格子を見ているとせよ
経験1:角と真ん中の格子が際立っている
経験2:残りの4つが際立っている

  • 反例3(マッハ、Peacocke[1992]、Macpherson[2006])

正方形をみている
経験1:辺の二等分線に注目している;正方形に見える
経験2:角の二等分線に注目している;ひし形に見える

→これらのどの例も、「行為者の注意を参照することなく、行為者の知覚内容が特定できる」という前提をとっている。ここではそれはできないと主張したい。

知覚内容と確定性

・我々の知覚機構は、知覚された光景のさまざまな部分に対してさまざまな性質を帰属させる。知覚内容とは、知覚された光景に帰属された性質の総計である。
・確定可能‐確定的関係(The determinable-determinate relation)
性質間の関係。Funkhouser[2006]参照
例えば、性質「赤である」は「色がある」を確定したものだが、一方で「深紅である」を確定可能にする。
確定可能‐確定的関係は、非反射的、非対称的、推移的関係であり、相対的な関係でもある。そこで、特定の性質空間の中でのヒエラルキーを与えてくれる。
それ以上の確定者を持たない性質は、超確定的性質と呼ばれる〔ヒエラルキーの最下位に位置する〕。

  • 注意と確定

我々が知覚的に帰属させる性質の中には、確定的/超確定的性質もあれば、確定可能性質なものもある。視覚の科学が教えるところによれば、周辺視覚はかなり確定可能な性質しか帰属させることができない。
ここで注意の働きが明らかになる:注意は、向けられた性質をより確定的にする。
なお、もし知覚された光景の一部分に、知覚によっては確定可能性質しか帰属できない場合でも、知覚以外の方法で確定的性質を帰属させることができる。例えば、記憶によって。

反例への応答

知覚内容をこのように考えれば、明らかに反例1、2は簡単に説明される。
▲しかし、反例1、2で見ている像は極めて単純なので、注意によってそれを別様に表象するということがどうやってできるのか、と反論されるかもしれない。
→われわれは黒地に赤の斑点でさえも、様々な仕方で知覚的に表象することができる。この斑点に、「赤の特定の色合い」という超確定的性質を帰属させることができるかもしれない一方、「赤」「暗い赤」というより確定可能な性質を帰属させることもできる。斑点の空間的な位置をもっと確定的/確定可能な形で表象することもできる。元も単純な像でさえ複数の性質を持つ。そしてどんな性質も、様々な特定性の度合いで表象されうる。
→反例3は少し難しい。
ひし形に見ている時と正方形に見ている時で、異なる幾何学的性質に心を向けているはずである。それが精確にどんな性質かはここでは重要ではない。しかしここで問題なのは、どの性質に心を向けていないか、つまりどの性質をただ確定可能なものとしてのみ知覚的に表象しているかである。たとえば、像をひし形として見る時、我々は「直角である」という性質を帰属させる必要はない。一方で正方形としてみる場合にはその必要がある。
▲しかし、「その必要はない」から「そうでない」は言えない。像をひし形として見るばあい、我々はその角に確定的な性質を帰属させない、とより強いが主張できるか?
→できる。視覚研究の実験は、我々が一度に心を傾けられる性質の数が極めて限られていることを示している。ひし形として見るときには、ひし形の決定的な性質を帰属させる必要がある。〔のだから、さらに〕角度に超確定的な性質を帰属ほど十分な知覚能力を持っているというのはありそうにない。

知覚内容をどう考えないか

知覚内容と注意の関係には三つの選択肢がある
(1)注意は常に知覚内容に影響する
(2)注意は知覚内容に影響する時も、しない時もある。
(3)注意はまったく知覚内容に影響しない。
しかし(3)をとると、不注意盲を知覚的現象として説明することができなくなる。では(1)と(2)ではどちらが正しいか。
ここまでの議論が正しければ(1)である。注意は、知覚による性質帰属をより確定的にする。これは、注意における変化が知覚された光景に帰属された性質の確定性を変化させるからである。とすれば、注意の変化は常に知覚内容を変化させることになる。